大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

長崎家庭裁判所 平成2年(家)1267号 審判

申立人 ○○児童相談所長

事件本人 A

主文

申立人が事件本人Aを養護施設に入所させることを承認する。

理由

第1申立の要旨

事件本人A(以下、単に事件本人という)は、父B(以下、単に父という)母C(以下、単に母という)の非嫡出子として昭和○年○月○日出生したが(昭和63年2月8日父認知、平成元年9月22日父母婚姻により準正子となる)、父の暴力のため同55年頃から別居し同63年7月頃から再び同居するにいたった。

事件本人は、父との同居後小学校4~5年生頃から再三にわたって家出を繰り返していたが、平成2年11月6日家出中警察に保護され、家出の原因が事件本人に対する父の猥褻行為であることが判明した。

そこで、警察は児童相談所に対し保護者に監護させることが不適当で早急に保護を要する児童として通告し、児童相談所は同月15日から一時保護し、処遇会議の結果養護施設入所の措置を決定した。

事件本人も父との生活を拒否し養護施設入所を強く希望している。

ところが、父はこの決定に反対し異議を述べているので、措置の承認を求めるため本件申立てをする。

第2当裁判所の判断

一件記録によると次のとおりの事実が認められる。

1  事件本人の母は昭和50年頃スナックでアルバイト中、客として来店した父と知り合い親しくなり、父の離婚成立後父の子3人を引き取ってa市内で同棲した。

母は父との間に昭和○年○月○日事件本人をもうけたが、その頃から父の暴力が激しくなり同居に耐えられなくなったので、事件本人が2歳時友人を頼ってb市に転居した。その後一時他の男性と同棲したが事件本人がいじめられることからこれを解消し、○○の実家に戻ったり再びa市に転居したりして事件本人と2人暮らしをしているとき、偶然のことから父と連絡がつくようになり事件本人の認知の件で連絡するうち父が入り込む形で再び同居した。母は平成○年○月○日父との間の第2子を出産したので同月22日父との婚姻届を提出した。次いで同○年○月○日第3子を続けて出産している。

母は、父が事件本人に対し怠学や勉強のことなどで激しいせっかんをしたり、猥褻行為をしたり(警察から聞いて知ったが、平成2年9月頃一度父が事件本人の身体の上から飛び起きはなれた際下半身裸になっているのを目撃したことがあると述べている)といった虐待があり事件本人が自宅で苦痛を受けていること、乳幼児が2人いて事件本人に対する十分な監護ができないこと、事件本人が施設で安定していること等の理由から施設入所には同意すると述べている。

2  事件本人の父は、昭和44年先妻と婚姻し4子をもうけたが(1子は幼時に死亡)同52年離婚している。現在未成年の子供2人は養護施設(c市d町所在)に入所している。前科は5犯あり服役したこともある。

父は、事件本人が仮病をつかって怠学した、帰宅が遅くなった、整理整頓をしなかった、家出をした、自宅学習を怠った等を理由に事件本人に暴力をふるったこと事件本人が小学校5年生頃から何回か猥褻行為(事件本人の陰部を触る、自己の性器を触らせる、自己の性器を事件本人の陰部に当てる)をしたことを認めている。

事件本人が父のこのような行為を恐れ嫌悪していることは分かるが、子供は親元で育てたほうが良いし、施設入所の同意は児童相談所に負けたことになるので出来ない旨述べている。

3  事件本人は、昭和○年○月○日父母の非嫡出子として出生し、同63年2月8日父の認知を受け、平成元年9月22日父母の婚姻により嫡出子の身分を取得した。

事件本人は、父とは2歳時に別居し長い間交流がなかったが、再び同居してからは、勉強のこと、怠学のこと、整理整頓がまずいこと、料理の味付けが悪いこと、動作がのろのろしていることなどを理由に激しい暴力をふるわれた。また、小学校5年生の終わり頃から猥褻行為(陰部を触る、陰部に指を入れる、キスをする、父の乳を吸わせるなど)をされた。猥褻行為は何時も無理矢理されるので怖くて声も出せず、また、母が妹の世話で忙しいことや父に知られた場合の母に対する暴力が怖いことから、母にも打ち明けられなかった。

事件本人は父の猥褻行為を恐れ、過去3回○○の祖母宅等へ家出していた。

事件本人は平成2年11月4日から家出していた件で警察の事情聴取を受けた際上記のような父の暴力や猥褻行為が判明したので、警察から児童相談所に2度にわたって通告された。

事件本人は、同月15日から児童相談所に一時保護され、その後養護施設に一時保護委託中である。事件本人は、一時保護の際「家には戻りたくない施設に行きたい」旨希望した。施設入所後は怠学もなく同室の友人達とも親和している。父の暴力が怖くてたまらないことや父の猥褻行為が嫌なので父の居る家には帰りたくない大きくなるまで施設にいて就職した後母に会いに行こうと思うと述べている。

4  以上認定した事実によると、事件本人に対する父の虐待行為は明らかであるうえ事件本人の出生のいきさつや父との長期に亘る別居という事情から父子間に真の親子関係が形成されていないこと、また、母は乳幼児を抱えて事件本人に対する十分な保護が出来ないことなど、保護者に監護させることが著しく事件本人の福祉を害する状態にあると認められる。本件は、まさに児童福祉法28条に規定する児童福祉機関の措置権を行使すべき事態にあるというべきである。

第3結論

事件本人の福祉のためには、事件本人を養護施設に入所させるのが相当と認められる。

よって、本件申立てを認容することとし、主文のとおり審判する。

(家事審判官 小田八重子)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例